国産「コール天」の正念場
産地は「滅びの美学」ではなく、ともし火を絶やさぬ努力を継続中
新たに新設されたコール天(コーデュロイ)起毛加工設備
(静岡県の野口染工)
日本全国の繊維産地には「滅びの美学」とでもいおうか、海外生産の増加や不景気の波に押されて受注量が激減しているところがほとんどだ。起毛(パイル)織物のうち、横糸を毛羽立たせる種類の「別珍」(通常“うね”が無い)や「コーデュロイ」(コール天、通常縦方向の“うね”がある)の一大産地で、全国シェアーの95%を占める静岡県磐田市の福田(ふくで)地区もその例外ではない。
しかしなんと、新たにコール天用の起毛設備を増強する意欲のある企業も現れている。昨年後半から試験的な運転を始めており、この秋の実需期に向けて本格稼動の段取りだ。意気軒昂だが現実は甘くなく、今年の実際の稼動は盛り上ってはいないようだ。関係者は来年以降を含めた長期的な戦略に気持ちを切り替えているともいう。
かって1978年に同産地は、コール天年間1億3,000万メートル生産の実績を記録し、婦人子供服、紳士ズボン、シャツ等の用途に大量に使用された。特にアメリカのリーバイス社などに刺激を受けたジーンズ業界での扱いが圧倒的な存在でカジュアル素材としての優位な地位を占めていた。
だが最近のデータでは生産量はなんと当時の100分の1に相当する130万メートルにまで落ち込んでいる。現在の生産能力は約200〜250万メートルだから、おおよそ6割程度の操業度ということか。しかし「織」、「染め」という工程の他に「剪毛(せんもう)、カッティング」、「ブラッシング整理」など起毛織物の独特の技術も必要とされるので、より一層の安定操業が必要ともいわれる。今回新たな設備技術に力を入れるのは(有)野口染工だが、他にも3社が重要な染色や仕上げ工程を受け持っている。同産地の問題点とされた工程分業体制体質から一貫体制への変身や、営業力強化など課題は多い。また「ジャパンメイドの灯火は消してはいけない。さらなる新商品研究に貢献したい。」と開発力を力点に話すのは長年別珍、コール天の開発販売に役割りを果たしてきたコンバーター、「ニシヤマテキスタイル」(大阪)の西山政弘社長だ。
コアスパン、ストレッチ混用、ポリエステル混用などの技術進化を含め、確かにまだまだニッポンの起毛商品の技術進化を進める観点から見ても、産地の努力に大きな期待と支援が広がる。アパレルメーカーやSPAなどからの問い合わせも増えそうだ。